プリズンヨガサポートセンターが目指していることを少し詳しくお伝えするページです。なぜ受刑中の方にヨガが必要だと考えるのか、私たちの考える更生とは何なのかを掘り下げていきます。

刑罰の目的とは?

凶悪な犯罪が起こり、センセーショナルな報道を見るたびに、加害者へ相応の罰が与えられて当然だと思うことがあると思います。相応の罰とは、厳しければ厳しいほどよいのでしょうか。長期間の拘禁や厳しい生活条件を科しても、出所後に再び犯罪を繰り返してしまうのでは、社会が犯罪に十分に対応できているとは言えないかもしれません。

受刑中の人々は、受刑に至るまでの過程で、子どもの頃に虐待を受けたり、教育過程や社会生活の中で不遇なことを経験したり、一筋縄ではいかない困難を経験していることが多くあります。そのため、彼/彼女らは自尊心が低くなりがちです。さらに様々な要因が絡まり合い、時の運も重なり、結果として犯罪への関与という最悪の結果が起こることがあります。悪いことをしたから厳しい罰を与えるというだけでは、そもそもの犯罪の背景にある問題に適切にアプローチすることはできません。その結果、再び、幾度となく犯罪が繰り返されてしまうという悲しい連鎖が起こります。

令和2年版の犯罪白書*では、刑務所を出所した後に5年以内に再び刑務所に入所する人が平均して37.5%と報告されています。入所回数ごとにみると、はじめての入所後の再入所率は20.5%であるのに対し、2度めの入所後は40.6%、3度目以上では53.3%となっています。犯罪に関わり刑務所に入る回数が増えれば増えるほど再び刑務所に戻ってくる確率が高くなる傾向にあります。

プリズンヨガサポートセンターでは、どのような形で刑罰が科されたとしても、再び社会に戻った時に、心身の状態を整えて更生し、きちんとした生活基盤を築き、犯罪に二度と関わることがなくなることが重要だと考えます。

*:"第3節2出所受刑者の再入所状況".犯罪白書令和2年版:薬物犯罪.法務総合研究所,2020,pp.222-224.
https://www.moj.go.jp/content/001338448.pdf,(参照 2023-4-8)

犯罪からの更生とは?

では、更生している状態とはどのような状態でしょうか?

トニー・ワード氏が2002年に提唱した、犯罪に関与した人の更生の理論である「グッドライフ・モデル」では、人が本来持っている価値観のなかでも特に大切にしている価値観である主要価値が満たされる人生を送ることで、結果として犯罪との関わりから距離を置く人生を歩むことができると考えています。

グッドライフ・モデル

グッドライフ・モデルが提唱する主要価値には、以下のものがあります。

  • 健康的な生活
  • 自分自身や社会への興味
  • 余暇や仕事での充実
  • 目標設定と自己決定による目標の追求
  • 内なるこころの平和
  • 良好な他者とのつながり
  • コミュニティとのつながり
  • 精神性(人生の目的・意味など)
  • 欲求の充足
  • 創造的な活動

個人が大切にしている価値観を満たすために講じる手段が法に触れるときに、その手段が犯罪とされ処罰されます。

たとえば、「内なるこころの平和」を大切にしている人が強いストレスや不安などを緩和するために薬物を使用するケースでは、その薬物の所持や使用が法に触れると犯罪として処罰対象になります。ヨガ・瞑想の継続的な実践により、ストレスや不安など「内なるこころの平和」を阻害する要因を低減することができれば、主要価値を充足することができます。

このように、法に触れない、社会的に許容された方法でその価値観(主要価値)を満たすことができれば、犯罪という手段に頼らずに、その人の大切にしている価値観を満たす人生を送ることができます。その結果として、犯罪に関わる必要がなくなり更生が促進されるのです。

つまり、自分自身を大切にすることができれば、他者を大切にすることにもつながると言えます。

私たちが目指すもの

プリズンヨガサポートセンターでは、ヨガや瞑想の実践が、実践者の人生を豊かにし、受刑者の更生を促すと考えています。これは、受刑者という対象に限らず、ヨガや瞑想の恩恵を感じたことがある方にはイメージしやすいと思います。

ヨガや瞑想を通して生れるマインドフルネスという心理状態が、自尊感情を高めたり、ストレスや不安を感じにくくしたり、他者との関係性の改善に役だったりと様々な影響を与えます。

科学的な研究で明らかになっているヨガ・瞑想の恩恵の一例

  • 不安の低減
  • ストレスの低減
  • 自尊感情の向上
  • 睡眠の質の改善

このような影響は、「グッドライフ・モデル」に基づくと、実践者が持つ価値観の充足に良い影響を与え、犯罪からの更生を促進する効果があると考えられます。受刑中の方が、自身のありのままの存在を受け入れて、慈しみを感じることで、自尊心の向上が促されることも期待されます。

プリズンヨガの可能性

プリズンヨガサポートセンターは、受刑者や出所者を対象に行われている既存の更生支援プログラムを否定するものではありません。また、ヨガや瞑想の実践のみで犯罪からの更生が実現されると考えているわけでもありません。

衣食住といった生活のための基盤は必須の要素であることは間違いありません。プリズンヨガ(ヨガ・瞑想)は、他の更生支援の取り組みを補完するものです。

また、プリズンヨガ以外にも更生を促す取り組みはたくさんあり得るかもしれません。しかし、私たちは、プリズンヨガはその実践に必要な費用が極めて安価で実現できる可能性が高く、費用面では、刑事施設としても実施しやすい施策であると考えます。

さらに、現在の日本の刑務所などでの生活上の制限がある中でも、すべてではありませんが、実践可能なものが多くあります。現在の日本の刑務所の状況を考えたときに、プリズンヨガという選択肢を実現する意義は大きいと言えるのではないでしょうか。

私たちはヨガ、瞑想の実践を通して、犯罪に関与した方々がより良い人生を歩むことをサポートしています。さらに、更生が促進され、社会にある不幸の連鎖を断ち、誰もが歓びを感じて生きられる社会の実現を目指し、継続的な取り組みをしたいと考えています。